「皆で企業価値を高めていく」ー経理と人事で取り組んだパナソニック コネクトの新制度導入ー
皆さん、こんにちは! パナソニック コネクト、From the Inside編集部です。
パナソニック コネクトの取り組みを内側からレポートする当シリーズ。今回は、7月4日に当社からプレスリリースされた「理論企業価値の算出方法を定義、役員報酬に連動する制度を導入」を紐解いていきます。
「理論企業価値の算出方法を定義、役員報酬に連動する制度を導入」と聞いても、耳なじみのない単語が多く、ピンとこない方が多いのではないでしょうか。我々編集部も発表を受けて少し難しい印象を受けたので、当算出方法の定義・制度導入の立役者である経理と人事のCONNECTer(パナソニック コネクト社員)を突撃し、制度誕生の背景や狙いを詳しく聞いてみました!
【プレスリリースURL】
理論企業価値の算出方法を定義、役員報酬に連動する制度を導入 | 経営・財務 | 企業・経営 | プレスリリース | Panasonic Newsroom Japan : パナソニック ニュースルーム ジャパン
対応してくれたのはこちらのCONNECTerの皆さんです。(23年8月現在の所属)
経理・財務本部 三宅 憲太郎さん 稲本 善宣さん
人事総務本部 北垣 信太郎さん 井上 葉子さん
― さっそくですが理論企業価値の算出について、背景を教えてください
三宅さん:パナソニック コネクトが、前身であるパナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社の時代から推進している企業改革の目的は、競争力強化による企業価値の向上です。
しかし、22年4月にパナソニックHDの事業会社のひとつとして発足したパナソニック コネクト株式会社は非上場企業ですので、時価総額のような明確な企業価値を表す指標を持っていませんでした。
そこで、パナソニック コネクトとして企業価値を数値として把握し、全員が企業価値向上に意識を向けて努力していこう。そのような思いで策定したのが「理論企業価値」です。
また、以前から、上場している競合企業との売上の成長や利益率などの業績比較を行い、企業価値を意識した経営管理を推進していたことも、新たな制度導入に向けての後押しとなりました。
―どのような算出方法なのでしょうか
企業価値の算出法にはいくつかありますが、今回は「市場で取引されるとしたら、いくらの価値がつくか」という視点で考える、マーケット・アプローチという方法を採用しました。このアプローチでは、企業価値は「短期的な収益性」と「中長期的な成長への期待」の掛け算で表されます。具体的には、現状の売上や利益に加えて、良い事業立地や中長期での持続的な成長が見込める企業が高く評価されることになります。
パナソニック コネクトは事業部制(事業内容ごとに編成された組織を構成する組織形態)をとっていますので、事業部ごとに企業価値を算出します。
「短期的な収益性」には各事業部のEBITDA(営業利益+減価償却費+のれん:簡易的なキャッシュフローを示す指標)を参照し、「中長期的な成長への期待」には、上場している競合企業の企業価値(時価総額+(有利子負債-現預金及び同等物-短期性有価証券)+非支配株主持分)がEBITDAの何倍で評価されているかの倍率(マルチプル)を用います。
この、競合企業の選定が最も難しいポイントでした。選ぶ企業が少なすぎると客観性と網羅性に欠けますし、多すぎると管理が煩雑になります。
さらに、客観性だけではなく、事業部の納得感も大切です。そこで、各事業部の所属する業界のEBITDA上位7社をSPEEDA(ユーザベース社提供の経済情報プラットフォーム)で自動選定し、各事業部が重視する競合3社を追加。合計10社を基準に、客観性と納得感のバランスを図りました。
こうして、各事業部のEBITDAと競合企業10社の平均マルチプルを掛け合わせて算出される企業価値を「理論企業価値」と定義しました。このパナソニック コネクト全体の理論企業価値が3年間でどの程度変動したかを見ていくことになります。
このアプローチの鍵は、業界や事業立地の中長期の将来性や持続性を、外部の市場や業界に目を向けて定量的に把握する点にあります。
―今回の取り組みは非上場企業としては極めて稀であると聞きました!
確かに、上場企業でさえ他社の個別の企業価値を指標に取り入れることはまれで、非上場企業の場合ですと我々の知る限り非常に珍しいと思います。
また、コネクトとして6つの事業部で合計60社の競合企業を選定しました。通常、ひとつの企業が選定する企業数は10社程度とされていますので、その数は非常に多いと思います。これは、事業部ごとに理論企業価値を算出しているためですが、この点もユニークな特徴だと思いますし、SPEEDAのようなデータベースの活用が拡がってきていることも、取り組みを支える要因のひとつとなりました。
―事業部側の受け止めはいかがでしたか?
稲本さん:私は6事業部のうちの一つである、プロセスオートメーション事業部の事業部経理を担当しているのですが、今までは年度ごとのPL(損益計算)に一喜一憂していて、正直、事業部としても企業価値や将来の価値を議論することはなかったです。
今回の算出方法の定義によって、事業をどうしていきたいか、ということを事業部単位でも数字ベースで検討し、企業価値を考える良いきっかけになったと思います。
指標となるライバル企業の検討当初、外部のデータベース(SPEEDA)を使って自動で選定された企業のリストをコネクト本社経理からもらったのですが、「ライバルとして選定するのは自分たちと同じレイヤーの企業だけでよいのか」、「ひとつ上のレイヤーの企業を選び、そこを目指すべきではないのか」といった議論を、事業部幹部とざっくばらんに行いました。
プロセスオートメーション事業部では日頃から、「細かい資料づくりに時間をかけるよりも、とにかくみんなでどんどん意見を交わそう!」と文字通り「ざっくばらんに」会議を実施するのですが、事業部全体として向かいたい方向を皆で議論できたことに大きな価値があったと思います。
―そうだったのですね!ここからは人事のお二人への質問になりますが、こうやって誕生した企業価値の算出方法を役員報酬にも連動させたのですよね?
北垣さん:はい、パナソニック コネクトとして新会社になったことで役員報酬の再設計が必要になり、LTI(Long Term Incentive)を取り入れることになったのですが、そのLTIの一つとして、理論企業価値を連動させることにしました。
これは役員が事業立地を意識してポートフォリオ改革を推進することで、パナソニック コネクト全体の企業価値向上に向けた経営に意識を向けてもらうというのが狙いです。中長期で成長していけるように視座を上げるための制度ですし、資本市場や投資家の目線を意識するためのものでもあります。
―苦労した点、難しかった点はありますか?
井上さん:新会社になるうえで役員報酬設計にLTIを導入することは先に決まっていたのですが、当初、連動させる指標というものがなく、ビジネス戦略と連動するインセンティブをどうすればよいか悩んでいました。
その時、経理の方で理論企業価値を検討していることを知り、「これだ!」と。
北垣さん:連動させることが決まった後も、経理と何度もやり取りしましたね。
井上さん:人事だけで検討を進めると、どんどんマニアックに、複雑になってしまうんですよね。実際に運用していくものですので、実用的でないといけないですから、経理と何度もすり合わせをしていきました。
―経理と人事で作り上げたということですね!
井上さん:今まで同じテーマで同じ目標に向かって経理の皆さんと一緒に課題に取り組む機会が少なかったのですが、今回、両者の密なコミュニケーションによって当制度を共創することができました。
北垣さん:昨年の秋ごろに当制度の実施が決まり、そこから一気に企画を推進しましたね。約半年で作り上げることができたのも、この連携の密度のおかげだと思います。
稲本さん:今回をきっかけに、今後はさらに人事と経理の連携が強まっていきそうですよね。
三宅さん:企業価値を算出する際にはこれひとつという「絶対的な正解」はなく、精度を追求し続けると果てしない作業となります。しかし、完璧を追求して立ち止まったり過度に時間をかけたりするのではなく、現時点で考え抜いた最良のもので走り始めて、アジャイルに修正していくことがパナソニック コネクトらしさだと思います。
そして、今後もより良い考え方や方法があれば、それを取り入れてアップデートしていきます。そこではきっと、人事や経理の共創が引き続き重要になってくると思いますし、経理部門としては、専門的知識を磨きつつ、世の中のトレンドにアンテナを張っておくことが求められると思います。
北垣さん:重要なのは、最初に稲本さんも言っていたように、理論企業価値を役員報酬にも組み込みながら、これをツールとして社員の意識や議論が「自分たちの価値をどう上げていくか、事業をどうしていくのか」という方向に向くことだと思っています。
一見、自分には直接関係ないように思えた今回の制度導入でしたが、人事と経理の担当者に裏側のストーリーを聞いたことで、その根本にあるのは、私たち一人ひとりが企業価値を日々意識することの重要さであることが分かりました。
今回は人事と経理の連携によって、パナソニック コネクトとして全く新しい制度導入を実現しましたが、部門の垣根を超えた共創はこれだけではありません!
From the Inside編集部はこれからも、部門やCONNECTerがコネクトしながら取り組む様々な挑戦の舞台裏をお伝えして参ります!